21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

Posted September 27, 2022 by X-Rite Color

今回は測色計のジオメトリ(光学幾何条件)について説明します。 ジオメトリというのは測定器における照明と受光の位置取りというか角度の取り回しのことになります。

測定する対象物が照明から光を受け、反射し、この光を人は色として知覚します。 通常、反射物からの光の反射は、色材内部からの拡散反射と表面からの鏡面反射の成分から構成されます。

物体表面からの鏡面反射の分布は、サンプル表面の微細形状によりさまざまです。 たとえば、チョークのような物質では、ほぼ完全拡散反射をするため、図 - 1のようにどの角度から観察(受光)しても同じ反射量が得られます。

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 1 完全拡散反射物質の反射光分布

 

同じ色材でも表面の反射が高光沢の場合、表面反射は照明の鏡面方向に集中することになります。 この場合、多くのエネルギーは正反射方向に集中し、拡散反射としてセンサーが受光するエネルギーは小さくなります。つまり、暗い色に見えます。

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 2 高光沢素材の反射光分布

 

同様に低光沢で少しマットっぽい素材の場合、表面反射も全方向に拡散するため、図 - 3のような分布になります。 正反射方向が小さく、センサーはより多くのエネルギーを受光するため、明るい色になります。

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 3 マット素材の反射分布

 

また、表面の微細形状がテキスタイルやプラスチックのようにランダムな凹凸がある場合、照明の正反射(鏡面反射)成分の分布は予測のつかない、さまざまな方向に不規則な分布を呈すことになります。 このため、測定位置などに依存して、測定値が大きくばらつくことになります。

さらに、今日では意匠的な特長を出すために、色材に高輝材を導入して反射光の分布を意図的に操作した素材なども現れています。 このような素材では色材内部からの鏡面的な高反射や干渉による波長選択的な高彩度の反射がさまざまな方向に分布することになります。

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 4 光輝材による反射分布

 

測色計のジオメトリはこのような反射素材の特長にあわせて選択、使用されます。

反射物体色の測色計では大きく分けて次の3つのカテゴリーに分類されます。

  • 45/0 もしくは 0/45
  • 積分球 d/8 もしくは 8/d
  • マルチアングル

測色計のジオメトリは最初に照明角を、スラッシュの後ろに受光角を記載します。

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

角度は測定サンプルの法線方向を0度とします。 つまり45/0の場合、照明角がサンプルの法線方向から45度の角度で照明し、反射光を0度の角度で受光することを意味します。

<45/0 もしくは 0/45 測色計>

図 - 5に45/0測色計の模式図を示します。法線方向45度から照明し、0度で受光します。
印刷やグラフィック関連の分野では正反射以外の方向の反射成分が比較的均等に反射されるため、また、グラフィック素材の観察では、通常、正反射成分を避けて観察するため、このジオメトリの測色計が主に使用されます。
0/45は照明と受光を入れ替えたジオメトリになります。光学の場合、照明と受光を入れ替えても同じ特性を示すため、45/0と0/45は同じ測定値を示すとされています。(サンプルに偏光成分がある場合などは注意が必要になります。)

ただし、CIEが規定する45/0では受光角の法線方向からのズレは10度まで許容されており、また、センサーの幅方向による許容範囲も受光角中心から8度以内の幅で許されています。つまりサンプルを観察する角度幅には各メーカーの裁量が含まれることになります。この辺がメーカーが異なると測定値が変化する原因ともなります。(見ている場所が違えば、測定された値は異なってきます。)
また、反射率という場合、照射した光に対する180度全角度方向の反射のことを射します。45/0や0/45測色計の場合、サンプル反射からの反射の一部の立体角として切り取った反射を測定していることになります。この意味からこれらジオメトリで測定しているのは正式には立体角反射率、もしくは反射率係数と呼ばれます。色の特性を考えるとき、常に光の分布を頭に入れてサンプルの測定を検討すること、 また、測定はサンプルの光の一部の立体角の分布をサンプリングをしていることを意識することは重要であり、その意識をこめて、測定しているのは分光立体角反射率とあえて呼ぶこともあります。
通常、45度の照明角は一方向からだけではなく、円環もしくは擬似的な円環配置のマルチ照明を使用します。こうすることで、測定する方向(オリエンテーション)の影響を低減します。円環照明はannular、円周上にマルチの照明を配置したものをCircumferentialと呼んだりします。

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 5 45/0測色計の模式図

<積分球 d/8もしくは8/d>

積分球は非常に反射率の高い素材の白色キャビティー(ほこら、もしくは空洞)により光を均等に拡散して照明もしくは受光する測定ジオメトリになります。
d はdiffuse拡散の意味です。

積分球(キャビティー)内面の反射率の高い素材としては硫酸バリュームやテフロン系のスペクトラロンなどが利用されます。 硫酸バリュームは胃カメラの際に飲む、あの白い物質です。ですから胃カメラの際、自分が積分球になったような感覚になります。 スペクトラロンは反射率が高く、均一性も良いため高品質な積分球に使用されます。

図 - 6および図 - 7は、d/8 拡散照明8度受光の模式図で、図 - 7が正反射ポートを閉じたSCI(SPIN)正反射込みの測定ジオメトリで、図 - 8が正反射ポートを閉じたSCE(SPEX)正反射除去の測定ジオメトリです。
CIEのジオメトリとしてはd/0, 0/dが規定されているのですが、10度までのズレが許容されていることから、意図的に8度ずらせたジオメトリが主流となっています。これは、法線方向から受光角を8度ズラすことで反対側の8度の位置に正反射ポートを設けることができるためです。
この正反射ポートを開閉することで、特性の異なる2つの測定値を入手できることができるようになっています。

 

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 6 SCI(SPIN)正反射込みのd/8ジオメトリ

 

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 7 SCE(SPEX)正反射除去のd/8ジオメトリ

正反射ポートを閉じた場合をSCIもしくばSPINと呼び、正反射光を含む、反射光分布のすべての方向の反射率の平均を測定することができます。この測定方式では表面の光沢度やテクスチャーなどの微細形状に依存しない測定値を得ることができます。ですから色材そのものの反射率を検討する場合は、この測定方法を採用します。

一方、正反射ポートを開けた場合をSCEもしくはSPEXと呼び、正反射光を含まない(除去した)測定になります。正反射方向の光沢は除去しますが、その他の方向の反射率に関しては平均値を測定することになります。この場合、鏡面反射を避けた「見え」に近い色を数値化します。ランダムに変化する微細形状の影響は平均化されるため、サンプルの測定場所にあまり依存しない、しかしながら見た目に近い測定値となります。 45/0の測色計では測定位置などの違いでバラツキが大きくなる測定対象のテキスタイルなどの色の見え方の評価用に使用されたりします。

たとえば、同じ色材(この例では赤)で表面の面質の異なる2つのサンプルがあったとします。
1つはスムーズな表面を持ち、もう1方はテクスチャー面のサンプルだとします。
このようなサンプルをSCIとSCEの2つの方法で測定した例をしたの図 - 8に示します。

SCIの測定ではこの2つは同じ色として、線グラフであらわされています。
SCEの測定ではスムーズ面は表面反射に反射が集中するため、この光は正反射ポートから外に逃げるため受光されません。このため反射率は低く、低い棒グラフとして現れています。 一方テクスチャー面では正反射光が不規則ではありますが全方向に分散するため、積分球でまとめてセンサーに受光されるため、高い棒グラフとして現れています。

 

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 8 SCIとSCEの測定の違い

このような特性を生かして、SCI(SPIN)は生産現場でのQCや調色用途に、また、SCE(SPEX)は見た目の色が重要となるQA(品質保証)の現場で使用されます。 いずれにしても1台の積分球で2つの用途を実現できるため、市場の積分球タイプは多くがd/8となっています。

<マルチアングル>

高級感のある製品デザインでは、高輝材や特殊な干渉顔料が使用され、角度に依存して色や明るさを変化させるデザインがあります。特に車のボディーなど動きのある物体に使用されると、物体の動きと共に色味や明るさがグリグリグリと徐々に変化するため、ダイナミックな躍動感をデザインにもたらします。

このような色の測定では、45/0や積分球など、一部の立体角の色や平均の色を捕えるだけでは色の特徴を管理することができません。角度ごとの色をキチンと補足する必要があります。

たとえば、塗装の段階で塗料内の高輝材顔料の配向がキチンと並んでいるか乱雑に配向しているかで、角度ごとの色の見えに大きな影響が出てきます。(積分球のような測定器では同じ値を示すことになります。) このような特徴をつかむためマルチアングルの測色計ではたくさんの受光角に複数のセンサーを用意して測定を行います。

 

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 9 きちんとした配向で塗装された高輝材

 

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 10 ランダムな配向で塗装された高輝材

たとえばX-Rite MA64Bの場合、1つの照明で5つの受光角のセンサーを配置しています。
照明角はサンプル法線方向から45度で、受光角は正反射光角から(マルチアングルの場合、サンプル法線方向からではなく正反射光角からの角度であらわします。 この場合、アスペキュラー角という意味でasを頭につけてas 15°などと表記します。)as 15, as 25, as 45, as 75, as 110°の各角度で受光した分光反射率係数を評価します。

 

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図 - 11 MA64Bのジオメトリ

最新のX-Rite MA T12 / MA T6では照明と受光をひっくり返して、照明をマルチアングル化しています。先にも述べたように光学系では照明と受光を入れ替えても同等の値となります。T6では照明角としてas -15, as 15, as 25, as 45, as 75, as 110の6つの照明角でサンプルを照明し、法線方向から45°で受光します。 (T12の場合、法線方向から15度の角度にも受光センサーを配置しています。)

 

21. 測色計のジオメトリ(光学幾何条件)

図 - 12 MA T6のジオメトリ

このように、さまざまな角度でサンプルを測色することで、意匠性の高い色に関しても、高い精度でデザインや生産管理に測色計を活用できるようになっています。

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